2025/10/17 14:01

こんにちは。柚香の森の店主です。

朝夕の風が少しずつ冷たくなってきましたね。
秋の澄んだ空気の中で、ふと本を読みたくなる──そんな季節です。

本好きにとって、秋は“読書の季節”と言われるだけあって、心が自然と本棚に向かいます。
でも、いざ何かを読もうとすると、「どれにしよう……」と、なかなか決められなかったりしませんか?

本屋さんやオンラインショップをのぞけば、毎日のように新しい本が発売されていて、まさに目移りしてしまうような状況。
「あ、これも気になる」「あっちも面白そう」と思っているうちに、買っては積んで、読む時間がないままになってしまうことも多いものです。

今日はそんな“読書の迷子”になりがちなあなたに、「新しい本」との付き合い方、そして「再読」の魅力について、ゆっくりお話してみようと思います。


新しい本は、本当に読むべき一冊ですか?

まず、少しだけ厳しいことを申し上げると──

新しい小説だからといって、良い小説であるとは限りません。
今の出版業界では、なんと“3分に1冊”のペースで新刊が生まれていると言われています。
つまり、1日に約500冊前後が新しくこの世に出ているということ。

でも、その中で本当に「心に残る一冊」「誰かの人生を変える一冊」に出会える確率は、そう高くはありません。

もちろん、新刊の魅力もあります。
話題性、時代の空気、そして新しい価値観──それらをリアルタイムで感じられるのは大きな醍醐味です。

けれども、私はあえてこう思うのです。

「その一冊が“時の試練”に耐えられるか、少し見守ってみませんか?」

少し時間をおいても読みたいと思える本。
人の手から手へと渡っても色あせない物語。
そういう本こそが、私たちの心に深く残る本になるのではないか、と。

たとえば、当店『柚香の森』で扱っている古本の中にも、出版から何十年と経っているのに、なお読まれ続けている本があります。
そうした本には、静かに読者を支える力が宿っているように思うのです。


「再読」という、静かな贅沢

「読んだことある本を、もう一度読むなんて、もったいない」

そう思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
でも実は、“再読”には、初読とはまた違う深い楽しみと豊かさがあるのです。

再読の良さは、何より「自分の変化」がわかるところにあります。

若いころには気づかなかった登場人物のひとことが、今の自分には心に刺さる──そんな経験をしたことはありませんか?

優れた小説は、ストーリーだけで成り立っているわけではありません。
言葉のリズムや描写の美しさ、人物の心理の揺れ、世界観そのものの深さなど、何層にも重なった魅力があります。

だからこそ、繰り返し読むことで、初めて気づく味わいがあるんです。

逆に、ストーリーだけが売りの小説は、一度読んでしまうと、次に読むときには少し物足りなく感じてしまうかもしれません。

本当に心に残る作品は、読むたびにその意味を変えてくれるもの。
まるで、こちらの気分や人生の段階に合わせて、静かに寄り添ってくれる友人のようです。

「今、なにを読むか」に迷ったら

読書の時間は、自分を整える時間でもあります。
だからこそ、読みたい気持ちを急がせず、「いまの自分が、どんな物語を必要としているのか」に耳を澄ませてみてください。

・疲れているときは、やさしい物語を。
・悩んでいるときは、自分より少し先を生きている誰かの声を。
・少し冒険したいときは、新しい視点をくれる本を。

そして時には、ふと気になって本棚にあったあの一冊を、もう一度めくってみてください。

きっと、そこに「今のあなた」にぴったりの言葉が待っていてくれるはずです。


 店主より、そっとひとこと


本を選ぶときに目移りしてしまうのは、あなたがきっと「本とちゃんと向き合いたい」と思っているから。

そんな気持ちがあるだけで、もう素敵な読書は始まっています。

焦らなくても大丈夫。

古くてもいい、前に読んだ本でもいい。
本との出会いはいつだって“いま”がベストタイミングです。

そして、もしあなたの本選びに少し迷ったときは、『柚香の森』をのぞいてみてくださいね。
昔ながらの、けれど時の試練を乗り越えてきた本たちが、ひっそりと待っています。

それでは、今夜もやさしい読書の時間を。

『柚香の森』店主より